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ケアスタッフも知っておきたい!PEGの基本と栄養管理
口から食べられなくなってしまった人のお腹にPEG(ペグ)と呼ばれる手術で
穴を開け(胃ろう)、そこから栄養を補う方法が広く行われるようになりました。
一方で、胃ろうを使う人の増加に伴い、合併症が大きな問題になっています。
  老年医学が専門で、栄養剤の開発などにも携わっているふきあげ内科胃腸科クリニック院長の蟹江治郎先生に、3回にわたり、合併症を予防し、胃ろうの
管理を上手に行うためのポイントを教えていただきます。
蟹江治郎(かにえじろう)先生:

ふきあげ内科胃腸科クリニック院長。
名古屋大学病院老年科、厚生連海南病院内科医長などを経て現職。 HEG(在宅医療と内視鏡治療) 研究会常任幹事、栄養材形状機能研究会幹事なども務める。医学博士。日本老年医学会専門医。
第2回 固形化栄養のメリットとは?―固形化経腸栄養剤の特徴と使い方―

  「経管栄養=液体」という“過去の常識”にとらわれていませんか。 その発想を転換し、胃ろうの人の栄養管理 を固形化栄養に切り替えてみると、嘔吐や下痢、栄養剤リーク(漏れ)などの合併症が軽減できる場合もありま す。


1.胃ろうは、腹壁と胃壁を貫通するトンネル

  人は食事をすると、食べたものを一定期間、胃の中に貯めておき、少しずつ 腸に送って栄養分を吸収します。そのため、食道と胃の間には噴門、胃と十二 指腸の間には幽門と呼ばれる門があり、食道への逆流を防ぎ、腸に送り出す量 の調節を行っています。

  しかし、液体は流動性が高く、ほんの小さなすき間も通り抜けることができるので、 簡単に噴門、幽門から漏れ出てしまいます。胃ろうの人にしばしば起こる嘔吐や 下痢は、こうして漏れ出た栄養剤が原因である場合がみられます。

  嘔吐は嚥下性肺炎の原因にもなります。また、胃ろうから栄養剤が漏れる栄養剤リ ークも流動性の高い液体栄養剤の場合、頻繁にみられる合併症です。

  こうした合併症を防ぐために生まれたのが「栄養剤を固形化する」という考え方。 それを製品化したのが「固形化経腸栄養剤」です。


2.固形化栄養は自然な食事により近い

  「固形化」といっても、単にトロミや粘りをつけた、いわゆる「半固形化栄養剤」とは“似て非なり”です。

しっかりした形があり胃の中では粒状になる
  「固形化経腸栄養剤」は液体を寒天で固めて作るため、使用前は流動性がなく、プリンのようなしっかりと した形があります。ところが、それが胃に入ると、一般の人がご飯を噛み砕いて飲み込んだときと同じような 形状になります。いわゆる「粥状」と同様に、小さな粒になるのです。この形だと、液体のように胃の中で過剰 に流動することがなく、噴門や幽門、胃ろうから漏れ出る可能性が非常に低くなります。
  粘性が低いため注入しやすく、チューブに付着しにくいのも「固形化経腸栄養剤」の特徴です。<
<固形化経腸栄養剤と半固形化の形状の違い>

一食分が5分程度で注入できる
 胃ろうを使っている人にとって、栄養剤は食事ですから、形だけでなく、所用時間も一般の食事並みであることが理想です。
 液体栄養の場合、前述した合併症や胃食道逆流による嘔吐と誤嚥、栄養剤の急激な吸収による高血糖などを防ぐため、1時間に100ml程度のスピードが推奨されています。しかし、これでは1回の食事に3時間程度かかってしまいます。その間、姿勢を保持しなければならず、そのことによる苦痛や褥そうの問題が生じます。また、ゆっくりとした注入は胃壁を拡張させないため、胃のぜん動運動も起こりにくいとされています。
 これに対し、固形化栄養の場合は一食分(300〜500ml)を5分程度で入れることができます。一気に入れるため胃の刺激になり、ぜん動運動が活発になります。短時間ですむので本人の苦痛が少なく、介護負担も軽くなります。5分程度の姿勢保持なら褥そうも問題になりません。


3.便利な市販の「固形化経腸栄養剤」
ハイネゼリー写真

  栄養剤の固形化のため、以前は粉末寒天を使って調理していましたが、 最近、商品開発され、調理の手間なく利用できるようになりました。

  「固形化経腸栄養剤」の定義は、「寒天などを使って栄養剤をゲル化 (流動性をなくして固形化)し、重力に抗してその形態を保つ固さとした経 管栄養剤」です。この定義を満たす市販の栄養剤は現在、「ハイネゼリー」 (大塚製薬工場社製)しかありません。

  経腸栄養や流動食だけでは、1日に必要な水分量が不足することが知られています。 市販の固形化栄養剤を使用する場合も水分量には十分注意しましょう。ハイネゼリーを使用する場合に必要 な追加水分の選択法と追加する量の目安については、PDFをご参照ください。

  次回は、固形化栄養に関するさまざまな疑問をQ&A形式で解説します。


  胃ろうに関する資料のシートを毎回ダウンロードできます。
毎号変わりますので忘れずにダウンロードしてください。
今回は、「固形化経腸栄養剤に追加する水分の選択方法」のPDFです。
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